冬目景『幻影博覧会』

幻影博覧会(1) (バーズコミックス)

幻影博覧会(1) (バーズコミックス)

幻影博覧会 2 (バーズコミックス)

幻影博覧会 2 (バーズコミックス)

何だか久しぶりに書く。

連載中の漫画などはまだ評価の定まらない途中のものであるから
こうして取り上げるのには向いていないとは思うが
経験上これ以上続刊は出ないと思われるから書いてしまおう。


冬目景は漫画家としてあるまじき致命的な弱点を二つ持っている。
一つはよく知られている連載を続けられないというものであるが
同時に連載を新しく始めたくてしょうがないというものこそがこの作者特有の弱点である。
作家としてやりたい事がどんどん出てくるのかどれ一つ取っても同じ様なモチーフはない。
血なまぐさい剣客物も描けば現代の恋愛物も描く、連載誌もバーズから始まりモーニングやガンガンですらやっている。
にも拘らずまともに終わった連載が『羊のうた』だけであるというのは如何に異常であるか分かるだろう。

この『幻影博覧会』もまた二巻が出るまでに二年かかっておりそろそろ遅筆から中断となる日も近い。
だがそれでも有り余った可能性を持っているものであると言える。


大正時代の探偵物をやりたいと言う気持ちが読んでいるだけで分かり当時の日本の情勢や
西洋化により変わりつつある文化・生活とその歪みなどに焦点を当てているがよく表現できている。
羊のうた』や『黒鉄』などでうまく表現された和服と近代化の象徴たる洋服の両方を
描けるこの時代は作者独特の雰囲気を活かす格好の場だと言える。
また助手の真夜が随所で提供する化学、政治、世界情勢の知識は読むのに役立つというよりも
僅か数十年で想像以上に日本の近代化が進んでいるのだと言う事を気付かされる。
怪奇めいた事件の裏にも必ず犯人の打算があり知識人は超常現象を否定するのが当然という認識である一方、
まだ見ぬ未来の事を無意識に口走る真夜の謎などどうしても理解しがたい現象も起きている。
これからどのようにも話が転がりうる状態であり楽しみであるが、どんな展開でもいいから進んで欲しいと言うのが切実な思いである。
(松)