高木彬光『神曲地獄篇』

神曲地獄篇 (角川文庫)

神曲地獄篇 (角川文庫)

最近高木彬光ばかり読んでいるような気もするけれど、これは読んだ途端新しい高木彬光作品を持ってきてくれる素敵な男がいるおかげです。

連合赤軍の「山岳ベース事件」を扱ったノンフィクションで連合赤軍やその背景となる時代、思想というものがもう既に過去のものとして感じられる今に読んでみると何もかもが新鮮に見える。
組織の腐敗という言葉はよく聞くけれど、その言葉の意味をこれほど実感出来るのはノンフィクションならではでないだろうか。
連合赤軍というと「あさま山荘事件」の銃撃戦の方が有名であるが、そこに至らざるを得なくなったほぼ直接的な原因である榛名山で行われた「山岳ベース事件」の凄惨さ、理不尽さが想像できる範囲を超えて展開される。


事実は小説より奇なりという事を表すかのように実際の事件をモデルに書く小説は独特の展開、雰囲気があると思う。
以前挙げたケッチャムなどもモチーフとなる事件から書いているのだけど、どちらも人間の暴力の理不尽さを嫌なほど生々しく書いている。
勿論書き手の手腕にも拠るし、その事件自体にひきつける何かがあるのだろうけれど、上手く合えば現実感のある奇怪さを作家の表現力で読むことが出来るのだろう。

この本は今まで読んだ推理小説と同じ様な書き方をしている部分があり、状況把握がしやすいように書かれている。
例えば定期的に死亡者に傍線が引かれたリストを提示されるが、徐々に人物関係や性格が分かるにつれて何故この人が死ぬのだろうかと疑問に思い、その理由が明かされるとまさかそんな些細な所が伏線になるのかと愕然とする事になる。



事件自体に興味が無くとも、集団ヒステリーの下で人はこれほど異常な行動を出来るのかとか暴力とかに興味のある人にはいいと思う。
そんな人は事件自体にも興味あると思うけどね。
あとタイトルの付け方も秀逸。