山田正紀『エイダ』

エイダ (ハヤカワ文庫 JA (599))

エイダ (ハヤカワ文庫 JA (599))

せっかくのテスト期間なのだから読まなきゃいけないものを中心にたまっている本を片付けていこう。
今日はWSB特集で任されたこの本。


メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』の話に含まれている幾重の意味が、話の中心となる物語が世界を作り出すという機能を狂わせた結果の起きた様々な矛盾を様々な並列世界で断片に語られていくのだが、正直ワイドスクリーンと言う面でもバロックと言う面でも力不足だった。
量子力学による宇宙を時空や並列世界を飛び越えて存在する人物による説明があちこちで行われるのだが、ちゃんと物理の量子論を知っていないとその内容を把握出来ない。
親切な事にそれに応対する人間はみんな高校の頃の物理で聞いた事があるようなといって一切理解しようとしない態度であり、説明は独り言のようになっているため理解しないでも話は進んでいけるだろう。
ただこの独りよがりな所がこの話を少々狭めている印象の原因であると思う。
確かにササン朝ペルシアから始まり、メアリー・シェリー、バイロンの娘エイダ、杉田玄白間宮林蔵コナン・ドイルとシャーロックホームズといった様々な時間でのエピソード、物語が現実に侵食するという事態を描く現代での並列世界の話などはWSBによく見られる広大さを描く方法に近いようにみられるが、結局言いたいのは何故フランケンシュタインの怪物が具現化したのかの過程に過ぎない。
WSBとして読むとかなり期待感が薄れた気がする。これ以上はASOVの方で言おう。


そういうの抜きで読んでもやっぱりあちこちで放り出していると思うかな。
特にこんなポンポン世界が簡単に生み出されるというのが不思議でならない。
登場する光を超えた恒星間航行の理論なんか、まるで世界はいくらでも沸いてくる無限のエネルギーみたいな扱いだし、分裂して生み出される世界はそんなに軽いものなのだろうか。