トルーマン・カポーティ『冷血』

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)


カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件。5年の歳月を取材に当て、被害者一家の暮らしぶりから始まり、事件の捜査手法と刑事たちの素顔、そして犯人ペリーとディックの生い立ちから死刑執行までがこと細かに書かれている。
 絶妙のタイミングで入れ替わる場面の構成はまるで映画のカットのようで飽きさせないし、ペリーとディックの犯行の部分に代表される迫真のシーンは、文章力というものをおおいに感じる。綿密さが決して冗長でないのだ。私がメモした範囲に限ってだけど、40人以上登場する人物たちの誰もがただの脇役にとどまっておらずそれぞれ役割を持っていることからも、それは分かってもらえると思う

題材となった事件は、いってみればケチな強盗によるただの一家殺害というありがちなものにすぎないのだけれど、読みすすめるうち、読者のなかにもインディアンの混血ペリーと詐欺師のディックが存在することに気づかされる。もちろん、刑事のデューイが、クラッターさんが、ウィリー・ジェイが。
「徹底した取材によって膨大なデータを蓄積し、それを再構築して現実の再現に迫る」手法のニュージャーナリズムは、日本で言えば佐木隆三の本が代表的だと思うが、もしかすると村上春樹の『アフターダーク』のほうが近いのかもしれない。そこは読んだことないのでなんとも言えない。
 つまり何が言いたいかと言うと、手法は出尽くしたものではあるが、『冷血』の読者に訴える力はただ事ではない、ということです。

(久)