ブッツァーティ『神を見た犬』

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)


神も悪魔も戦争も平和も、渇いたその目でじっと見ているブッツァーティ
新聞記者を経て作家になったらしく、その文章はたしかに斜め目線のような気もする。


ただ、「皮肉な文体」の一言だけだと、ちょっと足りない。
なんというか、ブッツァーティは、少し変わったツンデレなんだと思う。多分。
本当はえらく真面目なのに、精一杯ワルを演じているような、なんかそういうアレ?
「イタリアのカフカ」とも呼ばれていたらしいが、それもちょっと違うんじゃないか。
そのあたりは代表作『タタール人の砂漠』を読んでからじゃないとなんとも言えないけどさ。


『神を見た犬』の中では短編「マジシャン」が良い。
皮肉のうまい友人にばったり出会ってしまった作家の話。
自分の仕事に悩んでいた主人公は、友人の「作家なんてろくでもないよね」という言葉に反論していくうちに、悩みの解決策を見つけだす。その瞬間の友人の反応には、価値観の逆転がある。

この本1の短編だと思う。



あと、ブッツァーティ幻想文学の巨匠ということになっていますが、これは幻想文学ではないですよ。
幻想文学嫌いの自分が楽しく読めた本なので、異色作家短編集ということになりますね。


(久)