川端裕人『リスクテイカー』

リスクテイカー (文春文庫)

リスクテイカー (文春文庫)


フィクションとして誠実な作品が好きです。投げっぱなしは嫌いです。
虚構のなかの話と言えど、たくさんの事件があって、史実が組み合わさり、そうやって一枚一枚層を重ねるように出来上がった小説は、誠実で、中身が濃くて、大好きです。
MBAを取得したばかりの主人公たちが新興ヘッジファンドを組織し活躍する、この『リスクテイカー』。上に書いたとおりの、膨大な情報量で書かれた労作で、そして傑作でした。
全編通じて専門用語の嵐ではありますが、人物の会話ややりとりの中で何気なく丁寧に説明されるので、経済に疎い自分にも、世界中の相場が様々な専門的要因で乱高下する場面では、ハラハラしてしまいました。おいおい、アレが原因なのかよ! って。
作品内で起こるタイバーツ暴落や、人物ではアラン・グリーンスパンFRB長官など、実在するものと虚構であるはずの主人公のヘッジファンドが、リアリティある闘いを繰り広げるのも、最高にカッコイイ。
そして、
「さあ、マネーをかせごう」
「君はなぜマネーを稼ぐんだい?」
のふたつの言葉。ライブドア事件村上ファンド事件が起きた今年2006年に本書を読めたのは運が良かった。


『夏のロケット』と共通する「夢を叶えるためのチーム」というテーマは、『夏のロケット』以上にドラスティックで、そして熱い。前者はロケット、本作はマネーと、題材は違っても、底に流れるものは同じなんですね。
いやあ、読めてよかったです。



(久)