高木彬光『人形はなぜ殺される』
人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)
- 作者: 高木彬光
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/04/12
- メディア: 文庫
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様々なトリックが幾重にも混ぜられている、非常によくまとまったお手本のような本格ミステリ。
終わりになれば色々散りばめられた伏線が回収されるのは間違いない、だから見逃さずに読もうと挑んだのだがやっぱり最後は気持ちの良いぐらい見逃していたものを解消させられ、感嘆するしかなかった。
名探偵神津恭介が登場し解決するのだが、その登場は遅くしかもなかなか決定打を打てずにいるため非常にやきもきさせられる。
事件当初から誰もが犯人は異常者に違いないと言っているが、事件を解明していくにつれて神津恭介が犯人の想像以上の異常さを察していき、驚愕していく。
その恐怖すら覚える半狂乱の様は表面に見える以上の事件の根深さを表していて印象的だった。
本格ミステリの古典として有名なこの本だが、読んでみるとミステリの部分だけでない所でも充足感が感じられる。
決して今から描くことの出来ない戦後まもない日本の雰囲気、主要な人物も含む登場人物の大部分が南方など戦地からの帰還、戦前に教育を受け戦後を過ごす人々がそこはかとなく匂わす急激な時代の変化への対応などはそれだけで時代小説として楽しませる。
登場人物の一人がチャーチルのダンケルク撤退戦後の演説を僅か十数年前の話として言っており、更にその時はドイツが勝つと思ったなどという場面などは思わず顔がにやけてしまった。