山田風太郎『銀河忍法帖』

改題前の『天の河を斬る』のほうがカッコいい。だが、読めば『銀河忍法帳』のほうがしっくり来る。
大阪の役が始まる数年前、徳川家康と近臣は服部半蔵の伊賀屋敷に集まっていた。老中大久保長安が見せたいものがあると彼らを呼び寄せたのだ。そこで家康と服部半蔵が見たのは、長安の製造した戦車による伊賀忍者の大虐殺だった。大久保長安は発明家であり数学者であり金山開発者という、マルチな才能の持ち主。舶来のサイエンスを受け入れ、日本の将来を万事なきものにしようと考える、銀河のようなでっかい男なのだ。
長安自身が統べる佐渡金山への帰国途中、大名行列に1人の男が闖入する。六文銭の鉄と名乗った男は、長安に狙われた女とともに、長安を倒すべく動き始めるが……。
正直、主人公六文銭の鉄よりも長安一派のほうが断然インパクト強い。だって、小説の始まりが山師の京蔵人、味方但馬、数学者毛利算法ら長安配下の三人が操る戦車が伊賀者を殺し回るというものだもん。そうそう、長安の妾5人集もすごいサイエンスだ。硫酸入りのビンを投げ、火炎瓶を振り回し、鋼のムチで伊賀者を撃退し、リボルバーで狙撃してくる。名前があるのにまったく活躍できない伊賀5人集に同情する。
忍法帖を読むたびに疑問に思っていたことだが、この作品では分かりやすすぎる。



風太郎先生、あなた伊賀忍者のこと好きじゃないでしょう!?