異色作家短編集 シャーリイ・ジャクスン『くじ』

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)


ここに並ぶのは、どれも気味の悪い短編ばかり。
いままで読んだ異色作家短編集の中で、ずばぬけて気味が悪い。

どの作品も内容説明が難しい。というか、説明しても無意味。
ほんの少しの悪意がもたらすのは、現実のほんの少しのズレ。普通の小説なら、修正不能にまでふくらんだそのズレは、最後には破滅となって……というところだけど、この短編集はぜんぜん違う。迷路に迷って、そのまま終わる。迷ったまま終わる。出るとか出られないとかじゃなくて、迷ったまま終わる。すごく気味悪い。

表題作「くじ」はある村に昔から続く伝統行事の話。住民たちは行事の詳細どころか行うことの意義すら忘れ果てているというのに、その残酷な儀式を決してやめようとしない。
 私のフェイバリットは「魔性の恋人」。三十路の女がついに結婚式を挙げるその朝、いつまで待っても恋人はあらわれない。必死に街中を探し回る彼女がついに見つけたその先には…。
彼女はいつまで迷い続ければいいのだろう。哀しくなる反面、ストーカーという言葉を思い出す、一番気味が悪く印象強い作品だ。

ところで、ジャクスンの『山荘奇談』を読みたいと思っているのだけど、ハヤカワNVの『山荘奇談』と創元推理の新訳版『たたり』どちらを読めばいいのだろう。すごく迷うね。


(久)