週刊新潮『満州の夜と霧』はおもしろいよ


ノンフィクション作家の佐野眞一週刊新潮上で連載中の『満州の夜と霧』がすごいです。
新たな視点から国の暗部をえぐり、いままでの常識を一気に覆す力をもった連載。
関東大地震の混乱に乗じてアナーキスト大杉栄ら三人を絞殺し、戦時中は満州満映理事長に上りつめ、最後は青酸カリで自決した、怪人甘粕正彦
その魅力的な危なさは、荒俣宏の『帝都物語』では魔人加藤保憲に挨拶にきちゃうような怪人として描かれました。
この『満州の夜と霧』では、新しく見つかった「大杉栄らの死因鑑定書」が、甘粕による軍事法廷での証言とは大きく異なっており、その矛盾から大杉殺しの真犯人を暴いてゆきます。真犯人の正体は、やはりというか何と言うか、軍部です。怖いですね。

 「大杉だけならまだしも、正彦が子供を殺すはずが無い」
などの、甘粕の家族の証言も多く引用され、怪人と呼ばれる甘粕正彦の人間の部分にも光が当てられていて、そこが新しいと思います。


余談ですけど、週間新潮では船戸与一がやはり満州を舞台にした小説を連載しているし、「幕末バトルロワイヤル」というのもあります。歴史ものが多い。
若い女とおっさんとの間で読者層をつかみあぐねている週刊文春とは対照的に、週間新潮は方向性が明確で気持ちいいですね。


わたしたちはノンフィクションにはめっぽう弱い人種ですけど、『外地探偵小説』読むならこれも読みましょう。
前編の『阿片王』もおもしろいですから。

阿片王 満州の夜と霧

阿片王 満州の夜と霧






(久)