A・E・ヴァン・ヴォクト『宇宙嵐のかなた』

宇宙嵐のかなた (ハヤカワ文庫SF)

宇宙嵐のかなた (ハヤカワ文庫SF)

ラブストーリー、疑似科学、超人類、錯綜する陰謀。魅力的な要素を詰め込みまくったヴォクトらしい一冊でした。
辺境に住む超人類を見つけた銀河帝国の調査艦。その艦を率いる女艦長は地球的愛の力で超人類たちを銀河帝国に参加させようと説得するも、当然のごとく拒否されます。捕まえても自殺されてしまいます。そう、やつらは一筋縄じゃいかないのです。発達した脳を持つ超人類。ある時は怪力、ある時は催眠術、またある時は知能指数900MAXと、手ごわすぎです。さらに大星雲にちらばった彼らの所在地が実は分からない。さらにさらに、星雲には宇宙嵐がうずまいていたりと、もうてんやわんや。
といっても、ストーリーは超人類側の代表と女艦長の二人の視点ですすむので、一人視点だと錯綜しただろう展開も分かりやすいです。個人的には超人類側の政府を転覆させようとたくらむ青年に燃えました。悪玉ですが、かっこいいです。
そういえば、ヴォクト作品には魅力的な悪役が多いですね。印象的なのは『非Aの傀儡』の「影」でしょうか。名前からしてかっこいいし、存在自体が影なので通常攻撃がまったく効かない!! とんでもないやつでした。

あ、題名にある「宇宙嵐」ですが、ストーリーにはあまり関係してきません。分速半光年で進む戦艦の通行の邪魔ってだけの存在です。巻き込まれて二人が遭難しますが、結局この二人は結婚するので、まぁ体の良い恋のキューピットですわ。

(久)