安藤正勝『死刑執行人サンソン』


これはおもしろい。
今まで読んだ新書の中で1、2位を争うです。


フランスの死刑はギロチンが有名だけど、ギロチンが開発される以前は死刑執行人が手ずから首を刎ねていた。
だが死刑執行人も楽じゃない。日本の山田浅右衛門のように「斬首専門」というわけではなく、軽いところでは「焼きゴテ」から重いものでは執行に一日かかる「車裂きの刑」までを、さらに拷問まで担当していた。
当然、人を殺す仕事ということで一般人からは嫌われていた。また、死刑執行人はほぼ世襲制であり、その家系に生まれたことで悩む者も多く、それ故たいていは厳格なキリスト者だった。
彼らは「忌み嫌われるのは、死刑執行人という仕事であって、決して私個人ではない」という意識が強く、自分を律する力をもったいい男たちでもあった。
ついでに、死刑執行人一族サンソン家はかなり裕福だった。国からは貴族並みの給料を与えられていたし、刑の執行のかたわら医療の仕事も受け持っていたからだ。その仕事振りは「貴族からは金を取り、貧民は無料で治療する」ということで、例外的に貧民だけはサンソン家を敬っていた。


本書の主人公、4代目サンソン家当主シャルル・アンリはフランス革命を支持しながらも、感情的にはやはりルイ16世の王政を残しておきたいと考えていた。日本で言えば、民主主義を受け入れつつ天皇を敬う、まじめなインテリというところか。
シャルル・アンリはその生涯で、ルイ16世に3回会った。1度目は給与の未払いの催促、2度目は新しく開発されたギロチンの試験の時で、その際、ルイ16世はギロチンの刃の改良を提案した。そして3度目はルイ16世の刑の執行である。ルイ16世の提案により切れ味の上がったギロチンは、大勢の民衆と処刑台を取り囲む兵士たちと、サンソンら死刑執行人の前で王自身の首をスパっと刎ねた。


誠実な人間、シャルル・アンリ・サンソンが、死刑執行人という仕事ゆえに悩む姿を、フランス革命という舞台の上で再現する、小説以上にリーダビリティの高い新書である。


いつもは数行しか書かない自分が、ついこんなに書いてしまった。
そんだけ熱の入ってしまう良書だと、上は読まなくてもここだけ読んで分かってもらえれば幸いです。


(久)