川端裕人『The S.O.U.P.』

The S.O.U.P. (角川文庫)

The S.O.U.P. (角川文庫)


「ネットの秩序はネットが自ら創出する」
人気ネットゲーム「S.O.U.P」の元開発者である主人公。今はネットセキュリティーを守るハッカーとして収入を得ている。そんな彼のもとに経済産業省から、HPに侵入したクラッカーの身元を割り出して欲しいという依頼が舞い込む。犯人を追い詰めるうちに、ネット上で有名なクラッカー集団「EGG」の、そして「S.O.U.P」の開発者仲間の影が見えだし、それが現実世界を巻き込む現象になって……。


実は、コミュニケーションについての問題。それがこの小説の読みどころだ。ネトゲサイバーテロなんて謳った背表紙は信用しないこと。だって、主な登場人物全員がコミュニケーション障害者。そんで、舞台はネット。
「居心地の良い穴倉で暮らしながら、本当に必要な時、必要とされた時だけ、外に出て旅をするのだ(p129)」
「繋がれていなことの不安と、繋がらなければ生きていけない不安が、常に混同した奇妙な表現の形(p395)」
こういった感覚が、最後にはカタルシスを持って解決? される。
SF好きとしてさらに注目なのが、このコミュニケーションの問題が、ゲド戦記ナルニア国物語といったファンタジー世界を舞台にしたネットゲームの中で提起されること。そして、サイバーパンク前夜のような解決策。階層宇宙や偉大なる存在「シ」なんて小道具もある。
というように、現在のオタクの、コミュニケーション不全症候群のための小説だった。
つまり、おれたちのための小説ですわ。


(久)