鮎川哲也編『怪奇探偵小説集』

怪奇探偵小説集〈1〉 (ハルキ文庫)

怪奇探偵小説集〈1〉 (ハルキ文庫)


明治後半から昭和中期までの短編探偵小説を集めた作品集。
大正、昭和の感覚であるモダニズムにあふれている。モダニズムは現代では郷愁をもった異国趣味として反芻され楽しまれていると思っている。本格ミステリーに興味がもてない私が探偵小説に惹かれるのは、やはりそのモダニズムの雰囲気によるところが大きい。
収録作は以下
悪魔の舌(村山槐多)
白昼夢(江戸川乱歩)
怪奇製造人(城昌幸)
死刑執行人の死(倉田啓明)
B墓地事件(松浦美寿一)
死体蝋燭(小酒井不木)
恋人を食う(妹尾アキ夫)
五体の積木(岡戸武平)
地図にない街(橋本五郎)
生きている皮膚(米田三星)
謎の女(平林初之輔)
謎の女―続編(冬木荒之介)
蛭(南沢十七)
恐ろしき臨終(大下宇陀児)
骸骨(西尾正)
乳母車(氷川瓏)
飛び出す悪魔(西田政治)
幽霊妻(大阪/圭吉)


なかでも怖いのは、江戸川乱歩『白昼夢』と氷川瓏『乳母車』。上品に書かれた狂気は、おどろおどろしい描写に頼っていない分、それだけ不安を増して迫ってくる。人間の狂気は上品に書かれれば書かれるほど気味悪さが増すことが分かる。
 小酒井不木『死体蝋燭』城昌幸『怪奇製造人』は短編小説の典型のようなうまい作品。読者を惹きつけておいて、「はいこうでした」と種明かしをしてくれる、暗幕が引かれたような爽やかで明るいラスト。後味の良い作品だ。
余談だが、筑摩の『怪奇探偵〜〜』よりも、『外地探偵小説集』に近いものを感じるアンソロジーだった。ところで、外地探偵小説集の南方編が出るのはいったいいつになるのだろう。


(久)